新しい年のはじまりの朝。雪の降りしきる中、年老いた巫女は鎮守の森を歩いていた。
禊のために、大池へ向かう。細い道の脇には、たくさんの椿が植わっている。その椿が、赤に白に、いっせいに花をつけていた。雪の積もる道の上にも、赤い花が落ちている。まるで敷物のように。
この国は太陽の恵みを失っている。森も土地が痩せて、こんなに花をつけたことがない。見たこともない光景に、巫女はおののきながら花の上を歩いていた。
大池のそばには、ひときわ大きな椿がある。その椿もまた、たくさんの赤い花をつけていた。雪の上にあふれるほど花首を落としていた。
その根元に、巫女は小さな光を見た。
「司!」
巫女を探す声がする。
「ここもこんなに咲いたのですね」
白い衣服を着た若い巫女は、雪を埋め尽くす花びらの上を、おっかなびっくり歩いてくる。
「里の椿が、玉垣もいっせいに咲いています。皆何事かと大騒ぎで。こんなのはじめて見ました」
司のそばに来て、興奮した様子で言いきってから、言葉を失って立ち尽くす。
雪の中、椿の根元に、赤子が眠っている。光にくるまるようにして。一体どうして、こんなところに赤子がいるのか。司がそっと抱きあげると、赤子は火がついたように泣きだした。
小さな拳を握りしめる赤子を見て、司は微笑んだ。
「元気な女の子だ」
小さなお
たわまないように巡らせたたくさんの縦糸の間に、横の糸巻きを通し、打込棒で抑え、糸巻きを通し、打込棒で抑える、その繰り返し。
少女が三人、
みんな巫女の白い衣服を着て、色とりどりの文様の織り込まれた肩帯をしている。そして老女の額には、飾りの帯が結ばれている。巫女を束ねる司の証だ。
都波はすっかり飽きてしまって、皆が手際よく布を織り続けるのをぼんやり見ていた。
「ほら、手が休んでいるよ。それでは田植えの祭りに間に合わないだろう」
老女に言われて都波は頬をふくらませた。
「飽きたんだもの」
里の田植えの祭りでは、巫女が新しく織った布で、新しい衣服を作る。その真新しい衣を着た巫女たちが、稲田の神霊に、大地の神に、里を守る神に祈りを捧げて、最初の稲を植える決まりだった。
巫女が着た衣服は、里の者たちに下げ渡される。貧しい里で、とてもめでたいものとして、みんなそれを喜んだ。
「大事な田植えの祭りなのだから、気持ちを込めて織りなさい」
老女の言葉は強くないけれど、叱られて都波は、唇を尖らせた。
椿の繊維から白い糸を取り出して、巫女が織った白妙の布。
どうせみんな、都波が織った布なんてほしがらないのに。
少女たちが顔を見合わせて、くすくす笑っている。
拗ねた気持ちで、横糸巻きを引っ張った。
ふいに、板木を打ち鳴らす音が、遠くかすかに聞こえた。
二度叩いて、一息置いて、もう一度。それを繰り返す音。里に人が近づいているのを、皆に知らせる叩き方だ。
都波は、織り機から顔をあげた。まわりの少女たちもお互いに見合わせたものの、すぐ元の作業に戻ってしまう。
だけど板木を鳴らす音は続いている。都波は糸玉を放り出して立ち上がった。そのまま駆けだして、呼びとめる声に構わず、巫女の社を飛び出す。
途端に寒気が体中を包み込んだ。巫女がいる社は山の中にあって、木に囲まれている。外は雪がちらついて、風は頬を切るように冷たい。都波は白い息を弾ませながら、山を下っていく。
細い道を駆けて行くと、森の木が途切れる先には、簡素な木枠の門がある。神域の山と人里を分ける境目だ。そこを抜けると、里の人たちが住む集落が見えてくる。地面を掘って屋根をかぶせたような家々の間を縫って、ひたすら里の門へ向けて駆けた。
道の先はまっすぐに、里と外をへだてる門へ続いている。人の出入りの少ない木造の門は、小さくて扉もない。この門は、社へ続く門とは違い、魔除けに赤く塗られていた。
門の前にはいつも交代で男たちが見張りに立つのが里の決まりだった。門の冠木から大きな板木が釣られていて、音が響くように中は空洞になっている。今は見張り番が、台座に乗って板木を叩いている。
赤い門の両脇からは、緑色も眩しい椿の生垣が伸びていて、ぐるりと里を囲んでいる。生け垣は、人の住む集落も、巫女たちのいる山も、神を祀る大池も包み込んで、外と里を分けていた。それは
人の住む場所のうち、玉垣に守られた里のことを
都波は門の前に立ち止まる。
門の向こうは、雪が吹き荒れて真っ白だった。ほとんど何もわからない。目を凝らすと、雪原の中に馬と人影がふたつ、染みのようにある。
都波は顔を輝かせて、見張り番の横を駆け抜けた。呼びとめる声が聞こえたけれど、気にしない。
赤い門をぐぐり抜けた途端、神垣には吹いていなかった暴風が都波の頬を殴りつけ、髪をなびかせた。まるで引きちぎるような雪と風が強くて、目を開けられない。息ができない。もがくようにして進めたのは少しだけ。顔をかばって腕をあげたまま、身動きが取れなくなってしまった。しかも板木の音を聞いてから、上着も羽織らず飛び出したので、吹雪の中にいるにはひどい薄着だ。
玉垣の内側は、守られている。だけど外は、まだこんなにも雪が強い。
ふと、ほんの少し風がやわらいだ。腕を引っ張られる。
「こら! 考えなしに飛び出すな!」
ごうごうと吹き荒れる風の音にまぎれて、耳元で強い声が言った。
だけど都波は、凍えかけた頬をほころばせる。顔をあげると、都波をかばうように、風上に少年が立っていた。都波が何か言うよりも先に、鹿の毛皮の外套をかけてくれる。少年の体温が残った外套は、凍える都波の体をじわりと暖めてくれた。
少年は片手で都波を支え、杖を雪に突き立て、ゆっくりと歩き出す。
門を通り抜けて神垣に戻ると、途端に風がやんだ。体を包んでいた力から解き放たれて、都波はよろけてしまった。叩きつけてきていた雪は、ひらひらと舞う綿雪に変わっている。膝をつきそうになったところ、力強い手に引き上げられる。革の手袋をした手が、髪や肩にまとわりついた雪を、そっと払ってくれた。
顔を上げると、優しい仕種とは裏腹に、憤慨した声が降ってきた。
「いっつも、もうちょっと考えてから動けって言ってるのに。簡単に玉垣の外に出たら駄目だろ」
都波は少年の、頭巾の下の顔を覗き込んだ。明るい金茶色の瞳を見る。
「
首に飛びついた。しがみつく都波に、颯矢太は戸惑いとあきれの混じった声を出す。
「怒ってるの、分かってるのか?」
分かっている。びっくりして心配したから、怒っていることも。
「うん、ごめんなさい」
溜息が、耳元で聞こえた。
「いいから、手を離せ。巫女姫なんだから、軽々しいことしたら駄目だろ」
「でも、
矢継ぎ早の言葉に、颯矢太は思わずのように笑った。
「大丈夫だよ」
被っていた頭巾を取る。明るい色の髪があらわになった。都波のような里人はみんな、黒い髪と黒い瞳をしているが、颯矢太は違う。颯矢太の髪は赤みかかった茶色をしている。瞳の色も、黒ではなく茶色だ。それも光の加減では金に見える。
国が雪に覆われて長く、その間に、寒さと過酷な環境に強い体質の人間が生まれるようになった。颯矢太はそういう人のひとりだ。彼らのような体質の人間のことは、
「これじゃ、俺が後で司に怒られる」
頭巾の下でぎゅうぎゅうになっていた髪を片手でかきまわしながら、颯矢太はひとりごちた。
「おい、都波は無事か」
声を掛けられて、颯矢太は慌てて顔を向ける。さっきまで板木を叩いていた見張り番だ。踏み台を降りて、腰に手を当てて颯矢太を見ている。
「すみません。渡りで来ました。都波は無事です」
颯矢太は革の手袋をはずして、手の甲に彫られた文様を見せた。三本脚の
「お前も大変だな、颯矢太。おかえり」
見張り番のあきれたような声に、颯矢太は苦笑する。
「俺が見張りの時に面倒をおこしてくれるなよ」
見張り番は独り言のようにつぶやいた。都波は頬をふくらませて無言の抗議をする。
国中を雪が覆うようになって、人は玉垣の中にこもるようになった。雪人ほど体が強くないからというだけでなく、玉垣の外を恐れている。そのため颯矢太のような雪人が、神垣を渡って歩き、手紙や物を運ぶ。
そういった役目を負う者たちのことをトリと呼んだ。八咫烏は、雪人がトリになる時に手の甲に刻む印だった。
国を旅し続けるトリにとって、どの神垣も家ではなくて、止まり木だった。けれど、神垣の人はみんなトリに「おかえり」と言う。ねぎらいと敬意をこめて。トリがいなければ、どの里も雪の中に孤立してしまう。災厄に見舞われたり、食料が底をついたりしたら、玉垣と雪に囲まれたまま神垣は滅びてしまう。
「来て早々、お前は飽きないよな」
颯矢太の後ろから、背の高いトリが手を伸ばして、都波の頭をくしゃくしゃに撫でた。都波は意地悪く笑う顔を見上げて睨む。
「拓深。もう、意地悪ばっかり」
トリは二人以上で組み、馬を連れて行く。託されたものを確実に届けるために。道中で助け合い、もし一人が倒れても先へ進めるように。馬は、足になるだけでなく、身を寄せ合い暖をとって眠ることができる。馬には帰巣本能があって、それに助けられることも珍しくないのだと、以前颯矢太が言っていた。万が一の時には食糧にもなる。
颯矢太より少し年上の拓深は、赤茶の髪を無造作に後ろで束ねている。整った顔立ちをしていて、神垣の女の子に人気があるし、女の子みんなに優しい。ただ、都波だけはいつも子供扱いだ。
拓深は笑いながら馬をなだめると、手綱を引いてさっさと行ってしまう。
「ねえ颯矢太。わたしもそのうち、外に連れて行って」
都波は弾んだ声を出した。だけど颯矢太は苦笑して、都波のくしゃくしゃの髪を整えてくれながら、いつものすげない言葉を返す。
「都波が雪人なら、いつでも連れて行ってあげるよ。ちょっと散歩して帰るくらいならね」
「いっつもそれ」
都波はまたぷぅと頬をふくらませて、拗ねて見せた。都波は雪人ではないし、散歩をしたいわけじゃない。
「ここに用で来たの? 別のとこへの伝書を持ってきた途中? しばらくいるの?」
「ここにも用だし、別のところにも用があるよ。あとは、ここに留まっているトリと相談してみないと、どれだけここにいるかはわからないな」
「なあに、それ。決まっていないの?」
久しぶりに顔を見たのに、すぐに発ってしまってはつまらない。トリは旅をするものだし、颯矢太はその役割を大事に思っているから、仕方ないけど。
神垣の門のそばには、颯矢太たちトリがとどまるための、箱のような形をした建物がある。駅舎と呼ばれる建屋の戸が大きく開いて、壮年のトリが顔を出した。騒ぎを聞きつけたのか、厳しい顔をしている。
「颯矢太、と……拓深、お前たちか」
「
壮年のトリに、颯矢太は慌てて向き直る。大駕は、颯矢太と都波を見て、すこしあきれた顔になった。拓深は馬を厩に連れて行ったきり、返事もない。
「急ぎの便ではないのか?」
「状況伝達みたいなものです。取り急ぎの便がない者は、自分の
そうか、と大駕は頷いた。
「都波の気がすんだら、中に入って報せてくれ。里長にも伝達が必要だろう」
見張り番が警告の木板を鳴らすと、神垣の皆を不安にさせるから、トリはすぐに里長に挨拶に行くことになっている。すみません、と頭を下げた颯矢太に大駕はうなづいて、駅舎に戻って行った。
「颯矢太、これ」
着せかけてくれた毛皮の外套を脱ごうとする都波を、颯矢太は止める。
「神垣の中なら俺は平気だから。都波が体を壊すと困る。後で返してくれればいいよ」
「うん、ありがとう」
都波は歩き出した颯矢太の背を追おうとして、やめた。颯矢太には役目がある。邪魔をしてはいけない。
「颯矢太」
だけどひとつだけ、まだ言っていない。
ちらほらと雪の舞う中、颯矢太は足を止めて振り返った。その手に木の杖を持っている。数年前、颯矢太がトリになって旅立った日に贈った
「おかえり」
誰もが、トリをねぎらって「おかえり」と言う。だけど都波は、もっとずっとたくさんの、会いたかった気持ちと、無事で良かったと言う安心をこめて、微笑んだ。
颯矢太は小さく笑う。白い息を吐いて、ゆっくりと応える。
「ただいま」
↑冒頭部分
↓中盤
吹き荒れる雪を、炎が赤く照らしている。
夢の中で、炎を目指して、満秀はひたすら駆けていた。何度も見た夢だ。家が燃えている。里の家がいくつも。逃げ惑う人々の悲鳴と、里を踏み荒らす男たちの怒号が聞こえてくる。
守夜が満秀の前を駆け、うながすように戻って吠える。分かってる、先に進みたいのに、風が邪魔をして進めない。もどかしくて、苛立ちがつのる。
――とにかく前へ。少しでも早く。今度こそ、今度こそ!
でも、間に合わない。
これは夢だ。
里がなくなったあの日、満秀は狩りのために出かけていた。帰ってきて、こんな光景に会うなんて、思っていなかった。
満秀の姿に気づいて、男が向かってくる。毛皮を着込み、片手に松明を、もう片方に剣を持った男だった。雪明かりに照らされた男の頬には、渦のような赤い紋様が描かれている。
神喰だ。
弓をつがえて、怒りを込めて風上へ向けて放つ。風に押し戻された矢は、男の肩に突き刺さった。胸を狙ったのに風が強すぎた。満秀は走りながらもう一度弓をつがえる。男が怒りの声をあげて、身を低くして向かってくる。
弓を構える前に、犬が男の喉元に飛びかかって、引きずり倒した。血が吹き出して雪を染める。雪に落ちても松明は燃えている。満秀は男に見向きもせずその横を駆け抜けた。あとで血を拭いてやらないと、守夜が凍ってしまう。その方が気がかりだった。
やっと辿り着いた里は、どこもかしこも黒煙をあげていた。
「父さん、母さん!」
燃える家の間を駆ける。炎の煽りで頬が熱い。
――間に合わない、もう遅い。知っていても、懸命に叫ぶ。知っていても、幾度夢に見ても、心が張り裂けそうだ。
満秀の目の前で、家に隠れていた女性が引きずり出されて、切り殺された。弓の手入れを教えてくれたお姉さんだ。一緒に引っ立てられた老人が叫ぶ。いつも物語を聞かせてくれたおじいさん。
「ここは、
神喰は御神体を奪う。だけど垣離には、神々の名残は何もない。本来ならば神喰の
老人の目の前には、馬に乗った盗賊がいた。頬に赤い紋様。額にも、ぐるりと冠のような印がある。
満秀はつがえた弓を、馬上の男に向けて放つ。
「王!」
誰かが叫んだ。馬上の男の剣が、矢をはたき落とす。馬が驚きいなないて、男の残虐な瞳が満秀を捕らえた。
「逃げなさい!」
老人が声をあげる、その背に剣が降り下ろされる。神殺しの、鉄の剣だ。
満秀は叫んだ。悲鳴なのか怒りなのかわからない。ただ声が口からあふれた。
燃える家の間を、剣を持った男たちが満秀目指して駆けて来る。みな頬に渦のような赤い紋様が刻まれている。
逃げなければ。だけど、父さんと母さんはどこに。
守夜が満秀を守るように、敵に向けて吠え、満秀に向けて吠えている。うながすように。
わかっている、逃げなければ。だけど、どこへ。
踵を返して、来た道を戻る。里を燃やす炎の間を抜けると、どこもかしこも、吹き荒れる雪で白い。
国中を雪が覆っている。どこへ行っても、どこへ逃げても。
満秀は喘ぎながら目を覚ました。
目の前に炎が揺れて、雪が降っている。まだ夢の中なのかと困惑した。おかしなほどに早く脈打つ心の臓を抑えて、懸命に息をした。乱れた白い息が、目の前を泳いでいく。辺りを見回して、拓深と目が合った。
拓深は何も言わず、小さく揺れる火へ視線を戻す。
あの日のことは、何度も夢に見た。
どんなに駆けても間に合わない。誰も助けられない。逃げるべきではなかったのかもしれない。神食を一人でも殺すべきだったかもしれない。そうすれば、この先やつらが殺す数を、少しでも減らせた。
近くに気配がある。満秀と変わらない年頃なのに、人の血をたくさん浴びて、目つきもまとう空気も刃のような少年の。穢れた空気だ。そこに、それがあるというだけで、満秀は自分の心がざらつき、棘だっていくのを感じていた。気持ちを落ち着けようと、どれだけゆっくりと呼吸をしても、心臓の音はおかしな早さで打ち続け、心はどんどん刃のようになっていく。同じ空気に触れていると思うだけで、肌が粟立つようだ。
満秀は、噛みしめた奥歯がギリギリと音を立てているのに気付いた。慰めようと、守夜が鼻を押し付けてくる。柔らかい毛並みを撫でて、気を落ちつけようとした。
「ほら」
拓深が、ちいさな杯を満秀に差し出した。湯気が出ている。
「紫蘇を煎じた茶だ。少しは落ち着く」
少し赤っぽい色のお茶は、甘酸っぱい匂いがした。
「そいつを殺したら、少しは気がまぎれる」
鋼牙をにらみながら杯を受け取ると、そこだけ掌がじんわりと熱い。
「まぎれなかったらどうする」
「神喰を皆殺しにする」
拓深は、眉をあげた。そして唇の端を片方つりあげて笑った。
「まあ、好きにしろ。ただ何度も言うが、俺の前では許さない。俺が拾った命は俺のものだ。こいつが俺の手を離れてからにしろ」
何度も聞いた言葉だ。拓深を無視して、満秀は紫蘇茶をすすった。
寒さにかたくなっていた体に、あたたかい飲み物がしみていく。
拓深はふいに、雪の中に何かが動いたのを見た。降り続ける雪の向こうから、かすかだが音が聞こえる。守夜がぴくりと耳を動かし、顔をもたげる。
「静かにしてろ。火を消せ」
地面を掘った時に積み上げていた土を、急いで焚火にかぶせる。火が消えると同時、寒風が襲い掛かってきた。
風除けにしていた木の陰に身を寄せ、息をひそめる。満秀が唸る守夜を抱きかかえた。
闇に降り続ける雪の中、松明の明かりが見えた。いくつか、列をなして動いていく。ざわざわと、衣ずれとも足音ともつかない音が、あたりに響いた。
馬に乗った男たちが数人、その周囲や後ろを、毛皮を着た男たちが
――神喰だ。
馬には、狼の死骸が括り付けられている。様子がおかしかったのは、やつらが狼を狩っていたからなのか。ここにたどり着く前から、随分近くにいたことになる。――都波たちは、無事だろうか。