もう覚悟を決めて、目を見開くので精一杯だった。 打開策など思いつくはずもなく、ただ、こんな事態に至った経緯が頭の中を漂っていた。そんな些細な要素のすべてを、ちょっと憎く思ったり後悔したりする。 そもそも突発事態に弱いタイプだ。何か思いもよらないことが起きてしまうと、開き直って立ち向かうのではなく、開き直ってあきらめてしまう。「あーあ」とつぶやいて。 だから「どうせならもうちょっとましな死に方がしたかった」などと何の益にもならないことを考えていた。ああ、食べられるのってやっぱ痛いよなあ。どうせなら一思いに殺してからにして欲しいものだ。生きながらってのはさすがに冗談じゃない―― そんなことを考えていたはずだった。白昼、何の変哲もないのどかな住宅街でへたり込んで、青い空と大きな黒い影を瞳に映して、一瞬後には訪れるその時を、成す術もなく待っていたはずだったのに。 けれどその瞬間は思ったより遅くて、閑静な中を無遠慮に大きな音が響いても、瞳には変わらず青い空が映っていて、黒い影がいるし、自分はこんなにまだゴチャゴチャと考え事をしている。黒い影――? これ以上は無理だろうというほどに押し上げていた瞼をようやく下ろして、二、三度瞬きした。見開いていた瞳は乾いていて、瞬きのせいで涙が滲んだ。彼はその不安定な視界の中、様相が変わっている事に、ようやく気がついた。大きな影がいたはずのところに、両手をだらりとたらして、ただそこに「立つ」という動作ですら投げやりで無造作な印象を与える、小柄な黒い影がいる。 「くだらねえ」 吐き捨てるように落とされたその声は、高く幼く、小さかったが容赦がなかった。 黒い影に思えたのは、逆光のせいで紺のセーラー服がより濃い色に見えたからか、それともその人の持つ空気のせいか。もしセーラー服を着ていなければ、小学生に思えたかもしれないほど顔立ちは幼く、そして口調の辛辣さのせいで少年だと思っただろう。 けれど苛烈な瞳で無慈悲に、足元にうずくまる者を見るのは間違いもなく、たった一人の少女だった。 ※ |
つぎ。 |