六月のリトマス試験紙

中原まなみ

 それはとっておきの宝物の場所を教えるみたいな声だった。

「ねぇ。もうすぐ世界が終わるんだよ」
  夏鈴 かりん が言った。六月の細い雨が降り続いて、もう三日目になる日曜の午後。夏鈴の部屋の柔らかなレースカーテンからは、うすぼんやりとした明るさだけが昼を主張して射し込んでいた。その陽ざしに輪郭を薄れさせながら、夏鈴は微笑んでいる。
 少しだけ恐ろしげに。少しだけ悲しげに。でも、たっぷりの楽しさを隠そうともせずに。
「世界?」
 あたしは読んでいた本から顔を上げて、軽く首を傾げた。夏鈴はふわりと微笑むと、明るい茶色の髪を揺らしながら寄ってきた。細い指が、あたしの真っ黒なショートヘアを撫ぜる。
「そ。世界」
 言いながら、夏鈴があたしの髪を撫ぜているのとは反対側の手で、あたしの本を閉じようとする。あたしはそっとその手を抑え込む。
「やめてよ。まだ読んでるんだから」
「やだ。おしまい」
「おしまいじゃないよ」
「だって 美紅 みく 、遊んでくれないんだもん」
 ぷう、と音を立てそうなほど分かりやすく頬を膨らませて、夏鈴が不満げな顔をしてみせた。
「せっかく一緒にいるのに」
「だって、今日はうちでゆっくりしたいって言ったの夏鈴じゃん」
「そだよ。ゆっくり、いちゃいちゃしたかったの」
 言いながら、夏鈴がそっとおでこを近づけてきた。こつん、と軽くおでこが触れ合う。
「――あまえた」
「そだよ。知ってるでしょ」
 くすくす、と夏鈴が笑った。
 窓越しの雨音が、静かに染み渡ってくる。