しるし

夜野せせり

「私、明日死ぬ人がわかるんだ」
 と、雫は言った。
 今から4年前、小学4年の夏。
 学校のプールに行った帰り。公園のベンチに腰掛けて、一緒にアイスを食べていた。私たちには葉桜の影が落ちて、蝉がじりじりと鳴いていた。
「ふーん」と、私は言った。ふーん。明日死ぬ人。
「あのね、しるしが浮き出るの。頬に。星みたいな痣が浮かんで、光るんだよ」
 声をひそめて、ささやくように雫は告げた。
 しゃり、と、アイスをかじる。瞬間、すっ、と、脳みそが冷える。
 雫、今、そういう設定のアニメにはまってんのかな、と思った。それで、自分もその設定の中で遊んでるんだろう、と。
「いつから見えるの?」
 私はからだごと雫のほうを向いた。面白そうだから、つきあってみることにしたのだ。
「小さいころから」
「パパやママも知ってるの?」
「最初は私もわけがわかんなくて、あの人光ってるよ、どうして、って聞いてたの。でも、私が光ってるって言ったひとは必ず次の日死んじゃうってことに気づいて……。気持ち悪がられたから、もう言わないことにした」
「どうしてそれを、私に教えてくれたの?」
「美月ちゃんは親友だから。親友に秘密をつくるのは、よくない」
 アイスバーは溶け始めている。蝉は鳴いている。
「じゃあ、私が知ってる人の中で、だれか明日死ぬ人、いる?」
「いるよ」
 雫は即答した。
「2組の清水先生」
 清水先生は女子に毛虫みたいに嫌われているおじさん先生だ。わけのわからないことで怒るし、お気に入りのかわいい生徒だけ、あからさまにひいきする。今日だって、プールの監視に現われて、いやらしい目で女子のことを見ていた。みんな、いつも、影で「死ねばいいのに」と悪口を言っている。
「清水先生、死ぬの?」
「うん。しるしが光ってた」
 雫はどこか厳かな調子で告げた。
「それが本当ならラッキーじゃん」
 私は思わず、声をはずませてしまった。とたんに、雫は眉をひそめる。
「そんなこと言ってたら後悔するよ。なんせ、本当に死ぬんだから」