世/界/半/壊/リ/ス/ト/カ/ッ/ト/

森バジル

* 3 * 山田一夏 *

「『イチカが手首切ったら、世界が滅びる』」
 私は、かつてリリヒナに言われた言葉をわざとらしく反芻した。
「『だから、止めろよ』……ほんと、あの時はびっくりしちゃった。リスカ止めるにしてももっと他に言い方あるでしょ。〝親からもらった身体は大事にしろ〟とか、〝そんなことしたって何の解決にもならない〟とかさ」
 学校の屋上で、私とリリヒナは大股五歩分の距離をあけて向き合っている。リリヒナの表情は、風に靡く髪に隠れて読めなかった。
「それでも、信じたんだよ、私。ほんとに、私が手首切ったら、世界が滅びるんだって。世界の残り半分が滅ぼせるんだって。でも……嘘、だったんだね」
「イチカ……」
かなどめ 先生と一緒になって、私を騙したんだ。手首切るの、止めさせるために。馬鹿みたい。リリヒナと先生の作り話もお馬鹿だし、それを信じた私もお馬鹿」
「違う、聞いてくれイチカ――」
「世界、滅ぼせない。それは違わないんでしょう?」
「……」
 風が止み、リリヒナの顔が見えるようになったけど、進んで見たくなるようなものではなかった。いつものからっと晴れた夏空みたいな朗らかさは消え失せ、煮え切らずばつが悪そうな顔で目を逸らしてしている。
 私が魅せられたのは、そんな曖昧な顔じゃないよ。
「近づかないで」
 リリヒナがこちらに一歩踏み出そうとしたので、私は一歩下がりながら制止した。フェンスに背が触れて、軋む。開けた空間なのに、その微かな音がやけに大きく響いた。
「世界が滅ぼせないんだったら、私、もうこの人生終わらせようって思ってたんだ」
 そう言ってフェンスの網目に手をかけた。自分の身長の倍はあるフェンスをよじ登る絵面を想像して、間抜けだろうなぁと気の抜けた感想が沸いてきたが、そんなのもうどうだっていい。
 飛び降りよう。
 私は思い切って足をフェンスにかけて、一気に上ろうと手を伸ばした。
「待てっつってんだよ、バカ!」
 リリヒナがびっくりするくらい俊敏な動きで私の手を掴んでフェンスから引き剥がした。その力強さに圧倒され、思わず床に倒れ込んでしまう。最終的に仰向けの姿勢になったことで、視界のほとんどが空に占められた。もくもくと峙つ雲を背景に、災害対策用のドローンが数機、羽虫みたいに飛んでいるのが見える。