約束を鳴く鳥

永坂暖日

宮斗 みやと にプレゼントだ」
 幼い息子を膝の上に座らせた父は、バッグから箱を取り出した。包装はなく、紙の箱にリボンだけがかけられていた。父が自ら結んだのであろう、単なるチョウチョ結びだ。
 滅多に会えない父がプレゼントを用意していたのが嬉しくて、宮斗には包装のことなど気にならなかった。
「開けていい?」
「もちろん。開けてごらん」
 リボンは端を引っ張ると簡単にほどけた。四角い箱の中には白い鳥がいた。
 眩しいほどの白に、赤いくちばしが鮮やかだ。ぽてっとした体に羽毛はなく、造作は精巧だが一目で作り物とわかる。
「お腹をこすってごらん」
 言われて、宮斗が小さな指で丸い腹をこすると、小鳥はかたかたと動き出した。くちばしもぱくぱくと動くので、宮斗はとっさに指を引っ込めてしまった。
「大丈夫。噛みついたり、つついたりしないよ。それよりほら、落ちそうだ」
 宮斗の膝から落ちそうになった箱を、父の大きな手が支える。
 その間に、鳥は起き上がり、箱の中でぴょんと跳ねてその縁にとまった。羽毛がないつるりとした体なのに、動きは本物みたいだ。
 いや、宮斗は本物の鳥はほとんど見たことがない。立体映像や図鑑の動画で見た鳥の動きと似ていたのだ。
 箱の縁にとまった鳥は、赤いくちばしをぱくぱくと動かし、チチッとさえずっている。
「宮斗、この鳥を大事にするんだよ。お父さんが宮斗を迎えに来る前に、この鳥が知らせてくれるから」
「ほんとに?」
 宮斗は父を見上げる。
 その問いかけには、二つの意味が込められていた。本当に宮斗を迎えに来てくれるのか、本当にこの鳥がそれを知らせてくれるのか。
「ああ、本当だ。約束する」
 父は、宮斗の言わんとすることをちゃんとわかっていた。幼い息子が、自分の置かれた状況を理解していることを切なく思いながら。
「いつになるかわからないけど、必ず迎えに来る。その時、お父さんはこの鳥に合図を送るから、それで宮斗はわかるはずだよ」
「どんな合図?」
 見上げる宮斗の頭を、父が撫でる。小鳥がぴょんと跳ねて、宮斗の膝に降りた。
 父がバッグから小さなリモコンを取り出して、ボタンを押す。
 宮斗の膝でさえずっていた鳥が、作り物の翼を羽ばたかせた。
「ムカエガクルヨ。オウチニカエロウ」
 今時にしては驚くほど機械的でぎこちない音声だ。けれど何と言っているのかは、ちゃんとわかる。
「必ず、迎えに来るから……」
 宮斗を抱きしめる父の声の方が、今は聞き取りづらいと思った。